midoriさん

2012.04.30

「なんだかこれが最後になるような気がしてね、別れるとき、涙が出そうだった」と、数年ぶりに叔母であるみどりさんに会いにサンフランシスコに行っていた母からのメール、元気そうではあったけれど、去年半年ほど入院していたせいか少し弱気になっていたといいます。

みどりさんは母方の祖父の妹で、わたしの大叔母にあたります。名古屋に駐留していたアメリカの軍人さんと結婚し、若くしてひとり海を渡りました。戦争が終わってまだ間もない頃のこと。医学の道を志していたみどりさん、厳格な曾祖父が、敵国の軍人との結婚を許すはずもなく、ひとり海を渡りアメリカで生活することを選んだのでした。はじめての渡航は軍艦に乗って二ヶ月半の船の旅、お腹に赤ちゃんもいたためにつわりと船酔いで苦しい思い出しかないと、異国での生活を前に先の見えない不安でいっぱいだったことと想像します。けれど、生活力のなかった旦那さんとは二人目の子を産んでほどなくして別れることに。それでも日本に戻ることはなく、日系の企業などで働きながらふたりの子を育てました。

子どもたちも巣立ち、一人田舎で暮らしていましたが、60歳を前にして、昔からの知り合いだった方と再婚します。そのときすでに、旦那さんは重い病に冒されていました。ほとんど寝たきりのまま自宅での介護の日々でしたが、「ほんとうに幸せな時間でした」とみどりさんは言います。年齢とか、過ごした時間の長さであるとか、そんなちっぽけな秤にはかけられないものがふたりの間にあったのでしょう。

田舎でふたりで暮らしていた家を売り、いまはSFで息子さんと孫のColinと暮らしています。Colinはおばあちゃんのにぎるおにぎりが大好きな11歳の男の子、母がお土産に渡した鮭フレークをとてもよろこんでくれたそうです。一度切れてしまいそうになった糸も、またたぐり寄せれば世代を超えて太い紲になるのだと、みどりさんに教わりました。

 

四月三十日 月曜日(いつか大切なひとを連れていらっしゃいと言われてもうずいぶん経ちますが)
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